最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1505号 判決 1952年12月25日
本籍並びに住居
岡山県小田郡矢掛町大字一六九二番地
荷馬車挽
原田昭
昭和三年一一月二二日生
本籍並びに住居
同所二五六五番地
自動車運転助手
西岡昭二
昭和二年一〇月一二日生
本籍並びに住居
同県同郡三谷村大字東三成二七七〇番地
農業
坪井勇
昭和五年二月一八日生
右三名に対する強姦致傷被告事件について、昭和二四年四月二六日広島高等裁判所岡山支部の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
各被告人を夫々懲役三年に処する。
原審における訴訟費用は被告人等の連帯負担とする。
理由
被告人三名の弁護人寺田熊雄並びに被告人西岡昭二、同坪井勇の弁護人吉岡秀四郎の各上告趣旨について。
原判決挙示の証拠を綜合し且つこれによつて認められる判示暗夜十時過頃人気のない山中に当時一九年の婦女を連行した事情等をも考え合わせると、原判示の被告人三名が強姦することを共謀の上判示共同脅迫行為を以て判示姦淫行為を行い因つて判示の致傷の結果を生ぜしめた事実認定を肯認することができる。されば、寺田弁護人の証拠によらないで事実認定をしたとの論旨並びに吉岡弁護人の論旨一点は採ることができない。
そして、右致傷の結果が最初の姦淫行為者のみの行為に因つて生じたと認めなければならない経験則は存在しないし、また、その事実を認むべき証拠も存在しない。従つて、この事実認定を非難する吉岡弁護人の論旨二点はその理由がない。
また、処女膜の裂傷が刑法一八一条の傷害たるを妨げないことは当裁判所の判例であつて、今なおこれを変更すべきものとは思われないから、同弁護人の論旨三点は採用できない。従つて、論旨一点乃至三点を前提とする同弁護人の論旨四点も採用できない。
しかし、原判決の認定したところは、前述のごとく姦淫行為は被告人等各自の姦淫行為であるけれども、因つて生じた致傷の結果は被告人等中の何者かが被害者の処女膜に裂傷を与えたという単一の傷害の結果を発生させたことに帰するものであつて、被告人等三名各自の行為に因る三個の傷害でないこと明白である。しかるに、原判決は三個の強姦致傷罪成立し被告人三名各自が三個の併合罪の責を負うべきものと解したのは失当であつて、この点に関する寺田弁護人の上告趣意はその理由があるものというべく、従つて、吉岡弁護人の擬律に関する論旨に対する判断を与えるまでもなく、原判決は破棄を免れない。
よつて刑訴施行法二条、旧刑訴四四七条、四四八条により、原判決を破棄した上原判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人三名の所為はいずれも刑法六〇条、一八一条に該当するから、所定刑中有期懲役刑を選択し、諸般の事情を勘案して各その最低の刑に処するを相当と認め、なお、原審における訴訟費用については旧刑訴二三七条一項、二三八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
検察官 十蔵寺宗雄関与
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官沢田竹治郎は退官につき署名捺印することが出来ない。裁判長裁判官 岩松三郎)